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桃の花は薔薇科に属するのです
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「じゃあ、そういうことで。俺も湯浴みならぬ水浴みしよう」
「は?」
「なっ…」
そう、口にするや否や、半兵衛が三成と同じ池の中に飛び込んできた。しかも、彼は着衣のままだ。派手に上がった水しぶきや濡れた戦装束に気を止めることなく、彼は呑気に気持ちが良いと言い出す始末だ。
「官兵衛殿も来る?」
「行くわけがなかろう」
官兵衛は嘆息する。声にこそ出なかったが、三成も同じ心中だ。ため息の拾や百吐きたいものだ。
それで、卿はどうするつもりだ。ずぶ濡れのまま陣中に戻るつもりか」
「まさか。官兵衛殿が代えの衣装を持ってきてくれるでしょう」
「何故私が動かねば為らぬ」
「奥の手は、隠してこそ真意がある。それを官兵衛殿が知らないはずがない」
「……」
其れは三成には理解できぬ言葉であったが、官兵衛は違ったようだ。彼は何かを言いかけ、そして最終的に唇を引き結んだまま、二人に背を向けた。恐らく、言われるままに半兵衛の装束を取りに向かったのだろう。その様が何とも言えぬほど、不自然であった。
「あ、そうそう。ついでに清正にも伝えてよ。いつもより値引きされてる感じだから、のんびりしてると俺が買っちゃうよ、ってね」
半兵衛らしく茶化したように笑いながら、それでも視線は僅かに三成へと流す。完全に三成を蚊帳の外に押した会話をしているのにも拘らず、このように視線を寄越される訳が理解できずに三成は眉をひそめた。
「承知した。……だが、買うのは卿ではない」
そこで背を向けて歩き出していた官兵衛が振り向く。黒々とした眸が三成を捕らえる。
「この私だ」
その時、冷え冷えとした感情が一気に三成の背を駆け上る。言葉に出来ない嫌な予感を、三成はこの時胸に抱いた。

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