桃の花は薔薇科に属するのです
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三成が清廉な性質だと知っていた。性を偽り、身を賭して主君に仕えたことも。利に順じ、嘗ての主を捨てたものを断罪する様も。義で人を定め、情を挟まぬ、その幼いまでの純然さこそを、自分は愛していた。
「何故、愛してくれぬ」
三成がその言葉を発したのは、既に夜半を過ぎた頃合であったろうか。唐突に零れた言葉に、兼続は僅かに首を傾げた。
「何を唐突に。どうした、三成。」
つい先ほどまで、いかにしてあの家康公を挟撃するか。義の実現に、成すべきは何か。その闘志に任せるままに熱弁をふるっていた。だからこそ、彼女の言葉はあまりに脈絡がなく、俯く様にして兼続の視線から逃れる様は凡そいつもの三成とかけ離れていた。
「何故だ」
「愛していないとは、随分と自虐的だな。私がお前を愛していないわけがないだろう」
愛している。それは兼続にとって、心からの言葉であった。
決戦が近い。不安と希望に駆られる今だからこその言葉とも捉えられるが、今宵の三成の様子は常とは違う、思いつめた悲壮感が漂っていた。
「愛しているか?」
「そう言っている。どうした、お前らしくもない」
その様に口にした、刹那のことであった。急に三成は面を上げると、泣き出す寸前のような、悲哀を一心に溜めた貌で兼続の瞳を射抜いた。
「お前の愛する『三成』は俺ではないだろうっ!」
夜陰に響く、凛とした悲鳴。だが、三成の示す意味がわからず、兼続は再度顔を顰めることとなる。
「意味がわからぬ。三成はお前でしかありえぬだろう」
「だが、お前は決して俺を見ぬ。お前が愛しているのは、俺ではない」
「落ち着け、三成。どうかしている」
感情的に叫ぶ姿は三成らしからぬ様であった。だからこそ、いつもの情に左右されない三成を呼び起こそうと声をかけるのであったが、それが一層三成の神経を逆撫でしたことに兼続は気づかない。
「なら、語ってみるが良い。お前が愛する、三成とやらを」
べらべらと話すのはお前の得手だからな、と吐き捨てる三成に覇気はない。
→お題配布元:それでも僕らは今日もまた 己の生を紡ぎ 歩いていく 様(http://soredemo8349.fc2web.com/index.html)
「何故、愛してくれぬ」
三成がその言葉を発したのは、既に夜半を過ぎた頃合であったろうか。唐突に零れた言葉に、兼続は僅かに首を傾げた。
「何を唐突に。どうした、三成。」
つい先ほどまで、いかにしてあの家康公を挟撃するか。義の実現に、成すべきは何か。その闘志に任せるままに熱弁をふるっていた。だからこそ、彼女の言葉はあまりに脈絡がなく、俯く様にして兼続の視線から逃れる様は凡そいつもの三成とかけ離れていた。
「何故だ」
「愛していないとは、随分と自虐的だな。私がお前を愛していないわけがないだろう」
愛している。それは兼続にとって、心からの言葉であった。
決戦が近い。不安と希望に駆られる今だからこその言葉とも捉えられるが、今宵の三成の様子は常とは違う、思いつめた悲壮感が漂っていた。
「愛しているか?」
「そう言っている。どうした、お前らしくもない」
その様に口にした、刹那のことであった。急に三成は面を上げると、泣き出す寸前のような、悲哀を一心に溜めた貌で兼続の瞳を射抜いた。
「お前の愛する『三成』は俺ではないだろうっ!」
夜陰に響く、凛とした悲鳴。だが、三成の示す意味がわからず、兼続は再度顔を顰めることとなる。
「意味がわからぬ。三成はお前でしかありえぬだろう」
「だが、お前は決して俺を見ぬ。お前が愛しているのは、俺ではない」
「落ち着け、三成。どうかしている」
感情的に叫ぶ姿は三成らしからぬ様であった。だからこそ、いつもの情に左右されない三成を呼び起こそうと声をかけるのであったが、それが一層三成の神経を逆撫でしたことに兼続は気づかない。
「なら、語ってみるが良い。お前が愛する、三成とやらを」
べらべらと話すのはお前の得手だからな、と吐き捨てる三成に覇気はない。
→お題配布元:それでも僕らは今日もまた 己の生を紡ぎ 歩いていく 様(http://soredemo8349.fc2web.com/index.html)
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