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桃の花は薔薇科に属するのです
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水の音が、静かに流れていた。鬱蒼と茂る森の中に、三成は水浴びを楽しんでいた。
否、本当は楽しんでしているわけではない。男と性を偽っている為に、皆と同様に汗を拭うことができず、一人になれるところを探して此処―森の中に細く湧き出る池―に至った。それだけのこと。それでも、一目を忍んでこそこそと出掛けることは厭わしく、またそれ以上に三成の心中を惨めな思いに染め上げた。
それはひとえに、出掛ける前に清正に呼び止められたことも起因しているだろう。
戦にひとつ終止符を打ったとはいえ、未だ戦場にある身だ。危険を忘れたわけではないのだが、自分とて将のひとりだ。自分の身くらい自分で守れると言ったのに、彼はしつこく食い下がってきた。清正は三成の目的をなんとなく察したのだろう。それでも彼が護衛を買って出たとき、怒りで目の前が真っ赤になった。
守ってやれなければならない存在だと、彼に言われたのが悔しかった。
それでも、冷静になった頭では彼の言い分が正しいことが、少し理解できる。女の身で、戦の興奮冷めやらぬ中で身を清めるのだ。間違いのひとつふたつ、あったって可笑しくはない。
それでも、これ以上男との差を見せ付けられるような、惨めな思いをしたくはなかった。
体格差は年を経るごとに開いていき、ふたつ年の離れた清正の方が、今は頭ひとつ分ほど、大きい。首も腕も足も太く、大きな槍を片腕で悠々と扱う様は、此度の戦場でも一層輝いて見えた。
対して、自分はどうかと、三成は反駁する。
水面の下では白く貧弱な体があるだけだ。初めからわかっていたことではあった。男を偽ろうと、決して真実には為れぬ、と。理解していたのだが、現実に突きつけられると平常ではいられない。
細く柔らかな腕では、清正の様に武功で秀吉様を支えられない。此度の戦では後詰の将として、敵を挟撃できたものの、果たして次もうまくいくかどうか。
なにより、自分の身体能力に限界を感じ始めている。身の丈にあった鉄扇は振るうに易いが、相手を仕留めるとなると、かなりの労力を要する。殺傷力に欠けるのだ。それは、まさに今の自分の中途半端な位置と重なって映った。

心中を腐らせる思いを払うように、態と水面を叩く。静まり返る森の中で其れは一層高く弾んだ音を響かせた。
「あれ、こんなところにお客さんかなぁ?」
その音が再び静まる前に、聞き知った声が三成の耳に届いた。慌てて身を水の中に滑り込ませるが、遅い。
三成の眼前には、木立の間から二人の軍師が姿を現した。
きっと、彼らの目にはこの異様な身が映っただろう。事実、二人とも声には出さなかったものの、水の中に身を隠す三成を凝視している。
「……」
特に、上背のある官兵衛の方が、難しい顔をして三成を見下していた。何故、女の身で秀吉様に仕えているのか。無言で責められているような錯覚を覚えるほどに、この場の空気は重く、沈んでいる。

 

→お題配布元:ロメア様(http://romea.web.fc2.com/
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