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「何故、愛してくれぬ」
三成がその言葉を発したのは、既に夜半を過ぎた頃合であったろうか。唐突に零れた言葉に、兼続は僅かに首を傾げた。
「何を唐突に。どうした、三成。」
つい先ほどまで、いかにしてあの家康公を挟撃するか。義の実現に、成すべきは何か。その闘志に任せるままに熱弁をふるっていた。だからこそ、彼女の言葉はあまりに脈絡がなく、俯く様にして兼続の視線から逃れる様は凡そいつもの三成とかけ離れていた。
「何故だ」
「愛していないとは、随分と自虐的だな。私がお前を愛していないわけがないだろう」
愛している。それは兼続にとって、心からの言葉であった。
決戦が近い。不安と希望に駆られる今だからこその言葉とも捉えられるが、今宵の三成の様子は常とは違う、思いつめた悲壮感が漂っていた。
「愛しているか?」
「そう言っている。どうした、お前らしくもない」
その様に口にした、刹那のことであった。急に三成は面を上げると、泣き出す寸前のような、悲哀を一心に溜めた貌で兼続の瞳を射抜いた。
「お前の愛する『三成』は俺ではないだろうっ!」
夜陰に響く、凛とした悲鳴。だが、三成の示す意味がわからず、兼続は再度顔を顰めることとなる。
「意味がわからぬ。三成はお前でしかありえぬだろう」
「だが、お前は決して俺を見ぬ。お前が愛しているのは、俺ではない」
「落ち着け、三成。どうかしている」
感情的に叫ぶ姿は三成らしからぬ様であった。だからこそ、いつもの情に左右されない三成を呼び起こそうと声をかけるのであったが、それが一層三成の神経を逆撫でしたことに兼続は気づかない。
「なら、語ってみるが良い。お前が愛する、三成とやらを」
べらべらと話すのはお前の得手だからな、と吐き捨てる三成に覇気はない。
→お題配布元:それでも僕らは今日もまた 己の生を紡ぎ 歩いていく 様(http://soredemo8349.fc2web.com/index.html)
水の音が、静かに流れていた。鬱蒼と茂る森の中に、三成は水浴びを楽しんでいた。
否、本当は楽しんでしているわけではない。男と性を偽っている為に、皆と同様に汗を拭うことができず、一人になれるところを探して此処―森の中に細く湧き出る池―に至った。それだけのこと。それでも、一目を忍んでこそこそと出掛けることは厭わしく、またそれ以上に三成の心中を惨めな思いに染め上げた。
それはひとえに、出掛ける前に清正に呼び止められたことも起因しているだろう。
戦にひとつ終止符を打ったとはいえ、未だ戦場にある身だ。危険を忘れたわけではないのだが、自分とて将のひとりだ。自分の身くらい自分で守れると言ったのに、彼はしつこく食い下がってきた。清正は三成の目的をなんとなく察したのだろう。それでも彼が護衛を買って出たとき、怒りで目の前が真っ赤になった。
守ってやれなければならない存在だと、彼に言われたのが悔しかった。
それでも、冷静になった頭では彼の言い分が正しいことが、少し理解できる。女の身で、戦の興奮冷めやらぬ中で身を清めるのだ。間違いのひとつふたつ、あったって可笑しくはない。
それでも、これ以上男との差を見せ付けられるような、惨めな思いをしたくはなかった。
体格差は年を経るごとに開いていき、ふたつ年の離れた清正の方が、今は頭ひとつ分ほど、大きい。首も腕も足も太く、大きな槍を片腕で悠々と扱う様は、此度の戦場でも一層輝いて見えた。
対して、自分はどうかと、三成は反駁する。
水面の下では白く貧弱な体があるだけだ。初めからわかっていたことではあった。男を偽ろうと、決して真実には為れぬ、と。理解していたのだが、現実に突きつけられると平常ではいられない。
細く柔らかな腕では、清正の様に武功で秀吉様を支えられない。此度の戦では後詰の将として、敵を挟撃できたものの、果たして次もうまくいくかどうか。
なにより、自分の身体能力に限界を感じ始めている。身の丈にあった鉄扇は振るうに易いが、相手を仕留めるとなると、かなりの労力を要する。殺傷力に欠けるのだ。それは、まさに今の自分の中途半端な位置と重なって映った。
心中を腐らせる思いを払うように、態と水面を叩く。静まり返る森の中で其れは一層高く弾んだ音を響かせた。
「あれ、こんなところにお客さんかなぁ?」
その音が再び静まる前に、聞き知った声が三成の耳に届いた。慌てて身を水の中に滑り込ませるが、遅い。
三成の眼前には、木立の間から二人の軍師が姿を現した。
きっと、彼らの目にはこの異様な身が映っただろう。事実、二人とも声には出さなかったものの、水の中に身を隠す三成を凝視している。
「……」
特に、上背のある官兵衛の方が、難しい顔をして三成を見下していた。何故、女の身で秀吉様に仕えているのか。無言で責められているような錯覚を覚えるほどに、この場の空気は重く、沈んでいる。
政宗「何故、儂が通知表など貰わねばならんのだ、馬鹿め!」
幸村「政宗殿……どうか、そう仰らず」
イカ「利に群がる山狗め!
今日こそ、貴様の悪行の数々が群集に晒されるのだ!
覚悟せよ!」
政宗「何の覚悟だ! 馬鹿め!」
幸村「お、お二人とも、どうか気を鎮めてください。
この通知表なるものは、人格も加味されてつけられているのですよ」
イカ「む、そのように言うのであれば仕方ない。
山狗ごときに目くじらを立てるほど、私も器の狭い男ではないからな」
政宗「ふん!
残念だが、これは知名度や先見性、外交や遺産などでも判断されるのだぞ。
断絶した直江家などに儂が負けるものか!」
イカ「だが、この私ほど愛と義に溢れた、すばらしい人格を持つ者はおらぬだろう」
政宗「そのようなのを自画自賛というのだ! 馬鹿めが!」
幸村「ですから、落ち着いてください。
それに、先に進みませぬ故、通知表を開きましょう」
イカ「む、そうだな」
政宗「望むところよ」
三者とも通知表を開く。
幸村「…………」
政宗「…………」
イカ「………・・」
政宗「…………ふ。60点か」
イカ「! 不義の輩め! 私の通知表を覗き見るなど……」
政宗「どの道72点の儂には敵わぬ様だったな。
負け犬の遠吠えなど、見苦しいぞ、兼続」
イカ「く……っ!」
幸村「お二人とも、見事な点数ですな。私など56点ですよ」
政宗「…………。小十郎が世話をかけたな」
幸村「……はい?」
政宗「いや、いい」
幸村「?」
イカ「だいたい、真田の娘とはいえ、
か弱き婦女子を略奪するとは、貴様の家臣は……」
政宗「ええい、黙れ! 解説男!」
三成「騒々しいな。何事だ」
幸村「ああ、三成殿」
政宗「ややこしいのが増えた……」
三成「なんだ、この紙切れは?」
ぴらっと政宗の通知表を奪う。
政宗「おい!」
三成「『伊達者の心意気で秀吉に愛された独眼竜』?
気に食わんな。貴様ごときが秀吉様の寵愛を受けるなど……」
政宗「紛らわしいことを申すな、馬鹿めが!
貴様にも通知表が届いておるぞ、さっさと目を通せ!」
三成「ん? なんだ、俺にもあるのか」
政宗「どうせ貴様も敗戦の将だ。奥州の王であるこの儂には敵わ……」
三成「なんだ、85点か」
政宗「!」
幸村「流石です、三成殿!」
イカ「恐れ入ったか、山狗め!」
政宗「貴様が威張るな!」
……と、いうわけで。
戦国武将の通知表という本を買ったので、記念に書いてみました。
ちなみに、成績1位は信長様(95点)
2位は秀吉様(93点)
3位、家康(90点)
でした。
意外にも三成が高得点を出し、6位で(信玄や謙信や毛利よりも上です)
政宗は15位(毛利秀元と同位)
兼続は32位(織田信秀と同位)
幸村は37位でした。
ちなみに最下位(100位)は小早川秀秋でしたよ(笑)
養子とはいえ父上(小早川隆景)は5位なのにね。